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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)2665号・昭60年(ワ)2666号 判決

主文

一  被告は、甲事件原告に対し、一一万円及びこのうち一〇万に対する昭和六〇年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、乙事件原告に対し、七万三三六〇円及びこれに対する昭和六〇年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告のその余の請求及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(甲事件)

1 被告は、甲事件原告に対し、二〇七万二九六〇円及びこのうち一〇七万二九六〇円に対する昭和六〇年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(乙事件)

1 被告は、乙事件原告に対し、二一九万一七二四円及び昭和六〇年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 甲事件原告は、続木隆夫を代表取締役とし、自動車保険の鑑定を業とする株式会社であり、「続木ビル」という鉄筋造七階建建物を所有している。

(二) 乙事件原告は、昇降機の保守(修理を含む。以下同じ。)、点検を主たる業務とする有限会社である。

(三) 被告は、訴外株式会社東芝(以下「東芝」という)が全額出資して設立した東芝の子会社であり、東芝の製造する昇降機(エレベーター、エスカレーター、ダムウエーターをいう。以下同じ。)の保守点検業等を営む株式会社である。

2  本件不法行為の背景事情

(一) エレベーターに対する建築基準法上の規定

エレベーターの所有者、管理者又は占有者(以下「エレベーターの所有者等」という)は、建築基準法八条、一二条二項により、エレベーターを常時適法な状態に維持するように努め、定期的に一級建築士もしくは二級建築士又は建築大臣が定める資格を有する者にエレベーターの検査をさせ、その結果を都道府県知事に報告する義務を負っており、エレベーターの所有者等は、右義務を遂行するため、通常エレベーターの保守点検業者との間で、継続的な保守契約を締結してエレベーターの保守点検を行わせている。

(二) 我が国における昇降機の製造販売及び保守点検業の実態

(1) 我が国における主たる昇降機の製造販売メーカーは、東芝、三菱電気株式会社(以下「三菱電気」という)、株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という)、日本オーチスエレベーター株式会社(以下「日本オーチス」という)、フジテック株式会社(以下「フジテック」という)、日本エレベーター製造株式会社(以下「日本エレベーター」という)の六社であるが、これら六社は、それぞれ全額出資して、保守点検業を目的とする別会社を設立(東芝は被告、三菱電気は菱電サービス株式会社(以下「菱電サービス」という)、日立製作所は日立エレベーターサービス株式会社(以下「日立エレベーター」という)するか、自社が昇降機の製造販売とともに保守点検業を営むことによって、実質上昇降機の製造販売メーカーが、昇降機の製造販売業とともに、昇降機の保守点検業を営んでいる(以下、右六社関連の昇降機保守点検業者を「メーカー系保守業者」といい、昇降機の製造販売メーカーの出資等によって系列化されていない昇降機の保守点検業者を「独立系保守業者」という)。

(2) 被告をはじめ、メーカー系保守業者は、親会社製又は自社製昇降機の保守点検業のみならず、右エレベーターの保守部品(修理部品を含む。以下同じ。)の販売を行っている。昇降機の保守点検分野において、菱電サービスは業界第一位、日立エレベーターは同第二位、被告は同第三位の立場にあり、メーカー系保守業者による同分野の市場占有率は、九〇パーセントを越えているとともに、親会社あるいは自社の製造する保守部品を事実上一手に独占販売している。

(3) メーカー系保守業者による独立系保守業者に対する取引妨害行為

被告を含むメーカー系保守業者は、昭和五五年ころまで、独立系保守業者に対し、保守部品を供給することを一切拒否していた。その後、当該昇降機の所有者等の委任状を持参する独立系保守業者に対してのみ保守部品を供給するようになったが、種々の売り渋り等を行ったため、独立系保守業者が必要な保守部品を円滑に入手することは一般になお困難であり、独立系保守業者の事業活動が不当に拘束を受けた。そこで、公正取引委員会は、昭和五九年三月九日、被告らの行為が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という)二条九項六号、昭和五七年公正取引委員会告示第一五号不公正な取引方法(以下一般指定という)第一五項に該当し、同法一九条に違反するおそれがあるとして、被告を含むメーカー系保守業者に対し、「親会社製昇降機の保守部品の供給方針を改善し、他の保守点検業者に対する保守部品の供給についてその事業活動を不当に妨害することのないよう適切な措置を採ること」並びに「不当な妨害となる供給の制限等の行為を、以後再び行うことのないように」との厳重警告を行った。

しかし、被告は、右公正取引委員会の警告を全く無視して、その後も、独立系保守業者に対し、保守部品の供給を制限する等の不当な取引妨害行為を行っている。

3  被告の甲事件における取引妨害行為(以下「甲事件取引妨害行為」という)

(一) 甲事件原告は、昭和五六年八月一日から、原告所有の続木ビルに設置された東芝製エレベーター一基(以下「甲事件エレベーター」という)について、独立系保守業者である訴外愛媛メンテナンス株式会社(以下「愛媛メンテナンス」という)との間で、保守点検契約を締結している。

(二) 甲事件エレベーターの故障及び部品の注文

(1) 甲事件エレベーターは、昭和五九年四月二日ころより、下降時にスタートショックを起こした。その後、正規のエレベーター停止位置以外の場所で突然停止し、ドアが開かずに乗客が缶詰状態になる事故も、三、四回起こした。

(2) 甲事件原告は、愛媛メンテナンスとともに、右故障の原因を調査したところ、東芝製のGU―一七Yプリント基板及びその他部品に不良箇所があり、完全に修理するためには、同部品の交換が必要であると判断した。甲事件原告代表者は、昭和五九年五月一七日、被告松山営業所に対し、文書で、左記の部品(以下「甲事件部品」という)の買付注文を行い、納期については、甲事件エレベーターは危険な状態にあるので至急納品してほしい旨依頼した。

イ GU―一七Yプリント基板 一枚

ロ UCE七一三B一プリント板 二枚

ハ 錠スイッチ(可動側及び固定側)各七セット

(三) 被告の対応

(1) 甲事件原告代表者は、被告から右注文に対する回答が何もなかったため、被告松山営業所に電話で督促したところ、被告大阪支店から、昭和五九年六月一四日、左記のような回答を得た。

イ 保守部品のみの販売はしない。部品の取替え、修理、調整工事を被告に併せて発注するのでなければ、甲事件注文には応じない。右工事費用は甲事件原告が負担する。

ロ 注文部品の納期は、六月一四日から更に三か月先である。

(2) 甲事件原告は、被告に対し、再々、納期等の再考を申し入れたが、被告は、これに全く応じなかった。

(3) このため、甲事件原告は、安全を図るため、昭和五九年六月二九日から甲事件エレベーターの運行を停止させ、独立系保守業者である訴外阪神輸送機株式会社(以下「阪神輸送機」という)に、応急修理の応援を依頼した。阪神輸送機は、昭和五九年七月二日、右依頼を受けて、甲事件エレベーターの応急修理を行った。この結果、甲事件エレベーターは、当面の運行に支障がない程度の修理がなされたが、完全に修理するには、甲事件部品を交換する以外にないため、甲事件原告は、引き続き、甲事件部品の供給を求め、2(三)(1)記載の納期まで待ったが、被告から甲事件部品の供給はなかった。

4  被告の乙事件における取引妨害行為(以下「乙事件取引妨害行為」という)

(一) 乙事件原告は、昭和五九年七月二六日、訴外有限会社藤(以下「藤」という)との間で、藤所有の東芝製エレベーター(以下「乙事件エレベーター」という)について、月一万六〇〇〇円で期間の定めのない保守点検契約を締結した。

(二) 乙事件エレベーターの故障及び修理の依頼

(1) 乙事件エレベーターは、昭和五九年八月九日、フロアーとの水準が合わずに階下と階下の間で止まるという故障を起こし、藤の社長が缶結となった。

(2) 乙事件原告は、藤との間の保守点検契約に基づき、乙事件エレベーターの故障の原因を調査したところ、逆転検知リードスイッチ(以下「乙事件部品」という)が不良であることが判明し、その不良部分の取替修理が必要となった。乙事件原告は、藤の名義で、昭和五九年八月九日、被告に、右故障の修理を依頼した。乙事件原告が被告に修理を依頼したのは、乙事件部品を被告から購入して修理する方法を考えたが、独立系保守業者がメーカー系保守業者たる被告に部品を注文しても、不供給または売り渋りの妨害を受けることがあったので、修理を被告に依頼すれば乙事件部品の取替修理を行ってくれると思ったからである。

(三) 被告の対応及びその後の経過

(1) 被告は、乙事件原告が修理を依頼した翌日の一〇日に乙事件エレベーターの故障を修理しに来たが、乙事件部品は三か月後でなければ納入できないと言って帰った。

(2) 被告が修理した後も、乙事件部品の取替え修理がまだのため、九月一一日に、(二)(1)記載のような事故が発生した。

(3) 乙事件原告は、乙事件エレベーターの保守業者として、乙事件エレベーターが常に安全かつ良好な運転状態を保つように保守する義務があり、乙事件部品が納入されるまで三か月間も乙事件エレベーターを停止させておくことができないので、同日、やむなく、藤ビルの建築請負業者であった清水建設株式会社に依頼して、被告に乙事件部品の供給を催促してもらったところ、被告は、翌一二日に乙事件部品を持参し、この取替え工事をした。

(4) 藤との保守点検契約の解約

藤は、乙事件原告がエレベーターを完全・迅速に修理できないものと思い、乙事件原告に対し、昭和五九年九月をもって、乙事件エレベーターの保守点検契約の解約を申し入れたため、乙事件原告はその申入れに応じざるを得なかった。その後、藤は、被告と乙事件エレベーターの保守点検契約を締結した。藤は乙事件原告と保守点検契約を締結する以前に被告と保守点検契約を締結していたが、この時の保守金額が月三万六〇〇〇円であったのに、今回被告と締結した保守点検契約の保守金額は月三万円に下がっている。

5  被告の行為の違法性

(一) 独占禁止法違反

被告の甲事件取引妨害行為は、甲事件原告に対して、独立系保守点検業者の取引を妨害し、同者を昇降機保守点検業界から締め出すことを目的としてなされたものであり、乙事件取引妨害行為は、乙事件原告に代わって、藤との間で保守点検を締結しようという意図に基づくものであり、いずれも、独占禁止法二条九項六号、昭和五七年公正取引委員会一般指定第一五項に該当し、同法一九条に違反する違法なものである。

(二) 公序良俗違反

エレベーターの保守業務は、当該エレベーターメーカーの製造する保守部品の供給がなされることを前提として行い得るものであり、当該エレベーターメーカーあるいは当該エレベーターの保守部品を事実上独占販売しているメーカー系保守業者が適正な価格で必要部品を供給する社会的責任があるにもかかわらず、被告は、自己の利益を確保し、エレベーターメンテナンス市場を大手業者で分割支配し、独立系保守業者をエレベーターメンテナンス市場から排除しようとの違法な動機、目的のもとに、計画的に両事件取引妨害行為を行ったものであり、公序良俗に反する違法なものである。

6  被告の責任

被告は、独占禁止法及び公序良俗に違反することを認識しながら、甲・乙両事件の取引妨害行為を行い、原告らに損害を生じさせたのであり、民法七〇九条、七一〇条(甲事件についてのみ)の不法行為責任を負う。

7  損害

(一) 甲事件

甲事件原告は、被告の3(三)記載の違法行為により、次のとおりの合計二〇七万二九六〇円の損害を被った。

(1) 財産的損害 七万二九六〇円

修理代金 五万円

交通費 二万二九六〇円(松山市から大阪の阪神輸送機までの飛行機・バス代金)

甲事件エレベーターの故障の修理の方法は、甲事件部品の「修理」または「取替え(交換)」のどちらかであったが、愛媛メンテナンス及び甲事件原告は、故障を根本的になくすため「取替え」の方法を選択した。愛媛メンテナンスは、甲事件原告とのフルメンテナンス契約に基づき、右「修理」または「取替え」のうち最終的に選択された「取替え」に必要な費用を負担すべき契約上の義務を負っていた。ところが、被告の甲事件取引妨害行為により、取替えができなくなり、やむを得ない緊急措置として、阪神輸送機に応急修理を依頼した。

従って、右修理代金及びこれに関連して発生した交通費は「取替え」により発生したものとは言えず、愛媛メンテナンスがフルメンテナンス契約に基づき負担すべき費用ではないので、愛媛メンテナンスが立て替えた費用を甲事件原告が清算して支払った。

(2) 名誉・信用毀損による損害 一〇〇万円

甲事件原告は、昭和五九年五月一七日、被告に甲事件部品の買付注文をしたにもかかわらず、供給がなされなかったため、六月二九日から甲事件エレベーターの運行を停止させ、七月二日に応急修理をして甲事件部品が交換されるまでの急場を凌いでいる。甲事件故障発生から、右応急修理がなされるまでの長期間、続木ビル利用者は、スタートショックによる不快感を味わい、缶詰にされるかもしれない危険なエレベーターの利用を余儀なくされ、また、甲事件エレベーターの運行停止期間中階段を利用しなければならなかった。続木ビルの所有者で、甲事件エレベーターの所有者兼管理者である甲事件原告は、甲事件原告の代表者が、愛媛メンテナンスの代表者を兼務しているにもかかわらず、漫然と甲事件エレベーターを修理せず放置したと誤解を受ける等、著しく名誉・信用を毀損された。右名誉・信用毀損を金額的に評価すると一〇〇万円を下らない。

(3) 弁護士費用 一〇〇万円

甲事件原告は、甲事件原告訴訟代理人に本訴提起を依頼し、その弁護士費用として、一〇〇万円を支払う旨約している。

(二) 乙事件

(1) 得べかりし利益の喪失 一一九万一七二四円

昇降機の所有者等は、建築基準法の要請によって、エレベーターを運行させている限り、必ず、エレベーターの保守点検契約を締結しており、契約の相手方に特に問題がない限り、保守点検契約を自動的に更新している。乙事件原告は、藤との間で、月一万六〇〇〇円で期間の定めのない保守点検契約を締結していたのであり、被告の不当な乙事件取引妨害行為がなければ、少なくとも、税法上のエレベーター耐用年数である一七年間は、保守点検契約が継続できた。乙事件エレベーターは、昭和五二年ころ設置され、右耐用年数からすれば、少なくとも、後九年間藤との保守点検契約を継続することができた。

従って、月一万六〇〇〇円を昭和五九年一〇月より九年の期間で算定した一七二万八〇〇〇円より中間利息を控除した一一九万一七二四円相当が得べかりし利益として喪失したことになる。

1,728,000÷(1+9×0.05)=1,191,724

(2) 弁護士費用 一〇〇万円

乙事件原告は、乙事件原告訴訟代理人に本訴提起を依頼し、その弁護士費用として、一〇〇万円を支払う旨約している。

8  よって、甲事件原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、二〇七万二九六〇円及びこのうち弁護士費用を控除した一〇七万二九六〇円に対する本件不法行為の後である昭和六〇年四月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、乙事件原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、二一九万一七二四円及びこれに対する不法行為の後である昭和六〇年四月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)の事実のうち、甲事件原告の業務内容については知らず、その余は認める。

(二) 同1(二)の事実を知らない。

(三) 同1(三)の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実のうち、建築基準法にかかる趣旨の規定があること、昇降機の保守を目的とする継続的契約を締結する事例があることは認める。

(二)(1) 同2(二)(1)の事実のうち、東芝外五社が昇降機の製造販売を行っていること、右六社のうち東芝外二社につき、保守点検業を目的とする別会社が存することは認め、その余は否認する。

(2) 同2(二)(2)の事実のうち、昇降機の保守点検契約台数の順位が原告の主張のとおりであることは認め、その余は否認する。

(三) 同2(二)(3)の事実のうち、被告及びその他各会社に対し、公正取引委員会による警告がなされたことは認め、その余は否認する。

3(一)  同3(一)の事実のうち、甲事件原告が甲事件エレベーターを所有していることは認め、その余は知らない。

(二)(1) 同3(二)(1)の事実は、否認する。

(2) 同3(二)(2)の事実のうち、甲事件原告代表者が、松山支店に対し、昭和五九年五月一七日付文書で、甲事件原告主張のとおりの注文をしたことは認め、その余は否認する。

(三) 同3(三)の各事実のうち、被告が、甲事件原告に対して、甲事件原告の主張するイ、ロ記載の趣旨の回答をしたことは認め、その余は知らない。

4(一)  同4(一)の事実は知らない。

(二)(1) 同4(二)(1)の事実は認める。

(2) 同4(二)(2)の事実のうち藤から故障修理の工事を受注したことは認め、その余は否認する。

(三)(1) 同4(三)(1)の事実について、被告は、部品の納入期間が三か月必要であると表明したことはない。

(2) 同4(三)(2)の事実のうち、乙事件エレベーターが再度故障したことは認める。

(3) 同4(三)(3)の事実のうち、乙事件部品につき、被告が昭和五九年七月一一日、取替え工事を行ったことは認め、その余は否認する。

(4) 同4(三)(4)の事実のうち、被告が藤との間で昭和五九年一一月から乙事件エレベーターの保守義務を請け負っていることは認め、その余は知らない。

5  同56の各主張は争う。

6  同7の各主張は争う。

同7(二)の主張について、藤は、乙事件原告が、故障の原因すら特定し得なかったため、その技術力に不安を感じ、昇降機の安全性を考慮して、被告に保守義務を依頼してきたに過ぎない。

三  被告の主張

1  総論

(一) 被告の各行為は、後述のとおりの十分な合理性を有し、「不当な」取引妨害行為とならず、独占禁止法に違反しない。

(二) 仮に、独占禁止法に違反したとしても、後述のような高度の技術が集大成された精密複合機械であるエレベーターの保守は、被告のみがよくなし得るのであり、安全を確保するために、独立系保守業者である愛媛メンテナンスや乙事件原告に部品のみを売らなかったことは、正当な理由があると言うべきであり、違法な行為とならない。

2  エレベーターの特殊性と安全性の確保の要請について

(一) エレベーターは、都市における縦の交通機関として、不特定多数の一般公衆の乗用に供されているが、エレベーターの設置者はエレベーターの機械について知識がなく、その運行もすべて機械によって自動的に行われることから、エレベーターの安全性は、すべて機械自体によって担保されなければならない。エレベーターは、高度の安全性と高度の作動上の精確性が要求されるのである。

(二) エレベーターの技術的特殊性

エレベーターは、駆動方式、制御方式、操作方式、運行管理方式等のシステムの中に、機械、電気、電子等の広範囲の分野にわたる高度の技術が集大成された精密複合製品にあり、その仕様は、用途、積載荷量、運行速度、制御方式、操作方式、及び意匠等によって区分され、さらに、それぞれの区分が何種類にも細分化されている。エレベーターの仕様は、このような末端仕様の組合せによって構成されており、その種類は膨大な数になる。また、複雑な仕様によって形成されるエレベーターは、巻上機、制御盤、レール等六〇から一八〇種類の機器から構成され、ギア等の末端部品は、約四一〇〇種類、二万三〇〇〇から七万個にも達する。その上、エレベーターは、個々の顧客の個別仕様要求、据付ビルの用途等に合わせて受注し製造されるものであるため、各エレベーターは、それぞれの個性を有する精密複合機械である。さらに、最近では、建物の高層化あるいは技術革新に伴い、エレベーターの高速化、高性能化、高容量化、省エネ化等、機種及びその仕様の範囲は、増加拡大の一途をたどり、マイクロコンピューター類を用いた機種の登場に代表されるように、エレベーターの構造が一層複雑化している。このようなエレベーターに故障が発生したとき、その原因を正しく把握し、修理あるいは部品の交換をするためには、当該エレベーターの機構、特性、設計数値等を十分理解していなければならない。

(三) 被告の技術と安全性確保の責任

被告は、東芝から、保守・修理業務等の遂行に必要な設計図、技術資料等の情報について、ノウハウにわたるものまで提供を受け、保守・修理業務に必要不可欠な指針の作成や、作業員の技術教育等に積極的な援助を得ている。さらに、被告は、東芝と、技術の研究開発を協力して行い、共同出願にかかる特許技術も数多く取得している。このように、東芝の保守・修理部門の担当を目的として設立され、東芝から継受した技術力とノイハウに関する詳細な情報を有する被告でなければ東芝製エレベーターの保守・修理業務を完全に行うことはできず、被告自ら取替え調整工事を行うことによって、安全性を確保する責任がある。

3  甲事件における被告の措置の妥当性

GU―一七Yプリント基板は、エレベーターの速度制御にかかわる機能を有し、その安全性に直結するものであり、取替え後も特段の調整が必要とされるものであるから、特に取替え調整工事とあわせて受注することを求めたにすぎない。納期については、当時、プリント基板のバージョンアップが繰り返され、その材料である半導体電子部品が不足していた業界事情もあって、全社的に品薄であったため約三か月を要したのであって、不当に長期間とは言えない。また、部品交換後の旧部品の引き取りは、被告の要望にすぎず、契約条体ではない。被告の右措置は、何ら、違法と言われる余地はない。

4  乙事件における被告の措置の妥当性

被告松山支店は、昭和五九年八月八日ころ、原告から乙事件エレベーターに故障が発生したがその修理の方法が分からないので修理してほしい旨の依頼を受け、翌九日ころ、技術者を派遣して調査したところ、乙事件部品の不良が原因であることが判明したので、応急修理を施すとともに、藤から乙事件部品取替え工事の注文を受け、乙事件部品の手配をしていたところ、九月一〇日ころ再び事故が発生したとの連絡を受け、早急に対処することとし、被告高知出張所に乙事件部品がなかったため、松山支店の継続契約顧客用の在庫を融通して、翌日修理を完了した。被告の右措置は、何ら、違法と言われる余地はない。

四  被告の主張に対する原告らの認否及び反論

1  エレベーターの部品及び資材は、これを分類すれば、かなりの数に上ること、エレベーターは多少オーダーメード的な要素のあることは、認めるが、その余を争う。

2  エレベーターの安全性について

(一) 保守に必要とされる技術

エレベーターの基本的原理は、一定の動力により、カゴ(箱)が昇降路(シャフト)の内を上下に動き、この上下運動に対して、一定の方式により制御がかけられているということであるが、このエレベーターの基本的原理・構造は、歴史的にも大きな変化はなく、また、メーカー間のエレベーターを比較しても、質的相違はない。

二(1) エレベーターの安全性を担保する技術力は、法規の要求する技術力を下限とするものであり、それ以上の事実上の技術力は、各保守業者の自由競争による技術向上、顧客の選択に待つべきである。

(2) 法規の要求する技術力

昇降機の構造については、建築基準法三四条でその概略を規定し、同施行令一二九条の三から一二九条の一三の三に構造基準等を規定している。また、同法一二条二項で定期的に建築士または建設大臣が定める資格を有する者(昇降機に関して必要な知識、技能、実務経験を有する者で建設大臣が指定した講習の過程を終了した者)の検査を受け、その結果を特定行政庁に報告させることにより、法規上その安全性を担保している。そして、保守契約における保守点検項目と法の定める定期検査における定期検査項目とはほぼ同一で、通常定期検査資格を有する保守業者が保守契約の一環として定期検査、定期検査報告を行っておら、保守業務と定期検査制度とは密接不可分なものとして、ともにエレベーターの安全性の向上に寄与しているのである。このように、昇降機の検査資格を有する者の検査を含んだ保守である限り、安全性を担保する技術力の要件は満たされている。

(三) 都市における横の交通機関として一般大衆の用に供されている車両との比較

車両部品の供給については、道路運送車両法等により自動車整備士制度として下限の技術力を法規により担保し、それ以上の技術力については業界の自由競争に委ねている。

3  独立系保守業者の技術の獲得と伝達

それぞれの独立系保守業者は、エレベーター保守の経験・蓄積された技術を有しており、また、全国的な技術交流を定期的に行って故障事例の究明とその情報交換を行っている。昇降機検査資格を有する独立系保守業者であれば、メーカーやメーカー系保守業者から昇降機に関する情報提供がなくても、昇降機という現物が目の前に有る限り、そのもの自体から保守に必要なデータを十分に取ることができるのである。このようにして、独立系保守業者は、エレベーター主要メーカーのエレベーターのほとんどの機種を保守する技術を有しているのである。

4  GU―一七Yプリント基板の取替え作業の実際

取替え作業は簡単で、約五〇分足らずと短時間ででき、部品のバラツキを是正し、昇降機の個性に合わせる作業だけで、調整という特別な作業は必要ない。

5  乙事件部品の取替え作業の実際

乙事件部品の構造、取替えは極めて単純、簡単で、取替え後にバラツキの是正や個性に合わせる必要もない。

第三証拠《省略》

理由

一1  請求原因1(一)の事実のうち、甲事件原告が続木隆夫を代表取締役とする株式会社であり、「続木ビル」という名称の鉄筋造七階建の建物を所有していることは、甲事件原告と被告との間に争いがなく、《証拠省略》によれば、甲事件原告が自動車保険等の鑑定を業務内容としていることが認められる。

2  同1(二)の事実は、《証拠省略》によれば、認めることができる。

3  同1(三)の事実は、各当事者間に争いがない。

二  本件不法行為の背景事情

1  建築基準法八条、一二条二項には、昇降機の所有者等は、エレベーターを常時適法な状態に維持するように努め、定期的に一級建築士もしくは二級建築士又は建設大臣が定める資格を有する者に昇降機の検査をさせ、その結果を都道府県知事に報告すべき旨の規定が存することは、各当事者間に争いがない。

2  請求原因2(二)(1)の事実のうち、東芝、三菱電機、日立製作所、日本オーチス、フジテック、日本エレベーターの六社が昇降機の製造販売を行っていること、これら六社のうち東芝、三菱電機、日立製作所の三社には、保守点検業を目的として設立された子会社が存することは各当事者間に争いがない。

3  昇降機の保守点検分野において、保守点検契約台数が、菱電サービスが第一位、日立エレベーターが第二位、被告が第三位であることは各当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、メーカー系保守業者は、親会社製又は自社製昇降機の保守点検業のみならず、親会社製又は自社の製造する保守部品を事実上一手に独占販売していることが認められる。

4  昭和五九年三月九日、公正取引委員会が、被告を含むメーカー系保守業者に対し、「親会社製昇降機の保守部品の供給方針を改善し、他の保守点検業者に対する保守部品の供給についてその事業活動を不当に妨害することのないよう適切な措置を採ること」並びに「不当な妨害となる供給の制限等の行為を、以後再び行うことのないように」との厳重警告を行ったことは、各当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、被告は、自己の契約先以外からの部品の注文に応じる条件として、エレベーターの所有者または所有者の意向を汲んだものからの依頼であること、インジケーターランプ等の機器性能・安全性に影響を及ぼさない部品以外は、部品売りを行わず、労務費込みの有償工事としてのみ受注すること、受注に関しては、被告所定の注文書を用いること、原則として、在庫に余裕がある場合又は余裕ができてから契約先以外からの注文に応じること、という基準を定めていることが認められる。

三  甲事件エレベーターの故障に関する交渉の経過

1  甲事件エレベーターの故障と部品の注文

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  甲事件原告は、昭和五六年八月から、愛媛メンテナンスと、甲事件エレベーターの保守契約を締結している。

(二)  甲事件エレベーターは、昭和五九年四月はじめころより、下降時にスタートショックを起こし、その後、五月九日ころ、三階と五階で、正規のエレベーター停止位置以外の場所で突然停止し、ドアが開かずに乗客が缶詰状態になる事故を起こした。

(三)  愛媛メンテナンスが、甲事件エレベーターの故障の原因を調査した結果、GU―一七Yプリント基板に不良箇所があることを確認し、右故障を完全に修理するためには甲事件部品の交換が必要であると最終的に判断した。

(四)  甲事件原告代表者が、昭和五九年五月一七日、被告松山営業所に対し、文書で、甲事件部品の買付注文を行い、至急納品してほしい旨依頼した。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  被告との交渉の経過

甲事件原告代表者からの注文に対して、被告が、「保守部品のみの販売はしない。部品の取替え、修理、調整工事を被告に併せて発注するのでなければ、甲事件注文には応じない。右工事費用は甲事件原告が負担する。注文部品の納期は、六月一四日から更に三か月先である。」という趣旨の回答をしたことは甲事件原告と被告の間で争いがない。

右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  甲事件原告代表者は、被告から甲事件注文に対する回答が何もなかったため、被告松山営業所に、同年五月三一日、電話で問い合わせたところ、被告大阪支店から、六月一四日、前記回答を得た。

(二)  同月一六日、再び、正規のエレベーター停止位置以外の場所で突然停止する故障が起きた。

(三)  甲事件原告は、安全を図るため、同月二九日から甲事件エレベーターの運行を停止させ、独立系保守業者である阪神輸送機に応急修理を依頼し、七月二日、阪神輸送機に故障したGU―一七Yプリント基板を応急修理してもらい甲事件エレベーターを運行している。

(四)  甲事件原告は、同年一〇月二四日、甲事件部品の供結を催促したが、被告松山営業所の従業員は、被告所定の用紙による注文ではなかったので、まだ注文を受けていない、所定の用紙で取替え工事込みの注文をすれば、納期は三か月先である旨の回答をした。

(五)  甲事件原告は、被告所定の用紙で注文せず、部品のみの納入を求めたが、被告は、甲事件部品の供給をしなかった。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

四  乙事件エレベーターの故障の修理の経過

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  乙事件原告は、昭和五九年七月二六日、藤との間で、乙事件エレベーターについて、月一万六〇〇〇円で期間の定めのない保守点検契約を締結した。

(二)  乙事件エレベーターは、昭和五九年八月八日、フロアーとの水準が合わずに階下と階下の間で急停止するという故障を起こした。

(三)  乙事件原告は、直ちに乙事件エレベーターの故障の原因を調査したところ、乙事件部品の接触不良によることが判明し、その取替えが必要と判断したが、同部品が手元になかったため、同日、被告高知出張所に、藤の名義で乙事件エレベーターの修理を依頼した。

(四)  乙事件原告は、乙事件部品を被告から購入して修理する方法を考慮したが、独立系保守業者がメーカー系保守業者たる被告に右部品を注文しても、取替え調整込みでないと売ってもらえないことを知っていたので、初めから藤名義で乙事件故障の修理を被告に依頼した。

(五)  被告は、修理の依頼をした翌九日に、乙事件エレベーターの応急修理をしたが、乙事件部品がないので、三か月後に右部品が入れば取替えに来ると言って帰った。

(六)  乙事件エレベーターは、九月一〇日、前回と同じ故障を起こし藤の社長が缶詰になった。

(七)  乙事件原告は、やむなく、藤の社長に藤ビルの建築請負業者であった清水建設株式会社(以下「清水建設」という)に右部品の供給を催促してもらうよう依頼したところ、翌一一日、清水建設の玉沢義介(以下「玉沢」という)が藤ビルに来て、電話で被告に催促したところ、被告は同日被告松山支店の在庫にあった右部品(被告松山支店には、昭和五九年八月ころ、二、三の乙事件部品の在庫があった)を持参して修理にやって来た。

(八)  乙事件原告は、藤の社長から部品の入手がきちんとできないようでは完全なメンテナンスができないのではないかと言われたため、昭和五九年九月をもって、乙事件エレベーターの保守点検契約を解約した。

(九)  その後、藤は被告と乙事件エレベーターの保守点検契約を締結した。藤は、同年七月まで被告と保守点検契約を締結していたが、今回の保守点検契約の保守金額は月三万円で、前回の保守金額より数千円下がっている。

以下の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

五  違法性について

1  独占禁止法違反について

(一)  前記一、三認定の事実から、愛媛メンテナンス及び乙事件原告は、被告と競争関係にあると認められる。

(二)  独占禁止法二条九項六号、昭和五七年公正取引委員会一般指定第一五項にいう「不当に」とは、公正な競争秩序維持の見地から判断すべきであり(最高裁判所昭和五〇年七月一〇日第一小法延判決参照)、被告が愛媛メンテナンスや乙事件原告に部品のみを売るとエレベーターの安全が害さるか否かは、競争秩序の維持とは直接に関係のない事項であって、右「不当に」の解釈にあたって考慮すべきでなく、右安全性確保の必要性は、独占禁止法違反の行為について民法七〇九条の不法行為の成否を判断する際の、違法性阻却事由となるに過ぎないと解するのが相当である。

(三)  甲事件における被告の行為について

被告は、東芝製エレベーターの部品を一手に販売していること、甲事件原告代表者の注文に対して、被告所定の用紙で、GU―一七Yプリント基板の取替え調整工事を併せて注文するのでなければ応じず、右注文がなされてから更に三か月先を納期としたことは前記三で認定したとおりである。

《証拠省略》によれば、甲事件以外でも、GU―一七Yプリント基板等の注文については、取替え調整工事込みでなければ受け付けず、納期も一か月から三か月先を指定されることが多いこと、被告は、東芝が製造したエレベーターについて各機種毎の個別データ、在庫すべき取替え用の部品の種類・数量をコンピューター管理していること、現在は被告と保守契約をしているエレベーターの分の部品のみを管理しているが、被告と保守契約していないエレベーターの分についても、部品を管理することは不可能ではないことが認められる。

以上の事実を総合すれば、甲事件部品の注文に対して、取替え調整工事込みでなければ注文を受けない、納期は三か月先という回答をし、これに応じなければ同部品を売らないという被告の行為は、公正な競争を阻害し、被告と競争関係にある愛媛メンテナンスの取引を不当に妨害する行為と認められ、独占禁止法二条九項六号、昭和五七年公正取引委員会一般指定第一五項に該当し、同法一九条に違反する。

(四)  乙事件における被告の行為について

前記四認定の事実からすれば、乙事件原告の注文に対して納期を三か月先に指定し、直ちに納入しなかった被告の行為は、公正な競争を阻害し、被告と競争関係にある乙事件原告の取引を不当に妨害する行為と言え、独占禁止法二条九項六号、昭和五七年公正取引委員会一般指定第一五項に該当し、同法一九条に違反する。

2  民法七〇九条の違法性について

独占禁止法は、一般消費者の利益を確保し、かつ国民経済の民主的で健全な発達の促進を図ることをその究極の目的とし、右の目的を達成するために不公正な取引方法を禁止しているのであって、これによって、競争関係にある他の事業者のみならず、他の事業者と取引し、または取引しようとする一般消費者も、自由競争の下で自由な取引をする利益を認められ、かつ保譲されている。

従って、民法七〇九条との関係においても、特段の事情のない限り、乙事件における被告の取引妨害行為は違法な行為であり、また、甲事件における被告の取引妨害行為も甲事件原告に対しても違法な行為である。

3  取替え調整工事込みとしたのは、エレベーターの安全性確保のために必要という正当な理由に基づくものであり、違法ではないという被告の主張について

(一)  エレベーターの部品及び資材を分類すれば、かなりの数に上ること、エレベーターに多少オーダーメード的な要素のあることは、各当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、エレベーターは、高度な精密複合機械であることが認められる。

(二)  しかしながら、《証拠省略》によれば、昇降機の構造については、建築基準法三四条でその概略を規定し、同施行令一二九条の三から一二九条の一三の三で構造基準等を規定していること、同法一二条二項は定期的に一級建築士、二級建築士または建設大臣が定める資格を有する者の検査を受けるよう規定しており(この部分は前記二1のとおり当事者間に争いがない)、建設大臣の定める資格を有する者とは、一定の期間実務経験のある者で、建設大臣の指定する講習の過程を終了した者をいうこと、保守契約における保守点検項目と法の定める定期検査における定期検査項目とはほぼ同一であること、通常定期検査資格を有する保守業者が保守契約の一環として定期検査、定期検査報告を行っていること、愛媛メンテナンス及び乙事件原告には昇降機検査資格者が存在すること、独立系保守業者は、関東においてはエレベーター保守事業協同組合、西日本においては日本エレベーターメンテナンス協会という組織が存在し、愛媛メンテナンス及び乙事件原告は日本エレベーターメンテナンス協会に加盟していること、これらの組織は、それぞれ技術等の交流を行い、また、全国的にも技術交流を定期的に行って故障事例の究明やその情報交換を行っていること、欧米では国によっては、プリント基板を含めたエレベーターの各種部品の販売が自由に行われ、当該メーカー系保守業者以外の保守業者による保守契約も容易であること、GU―一七Yプリント基板は、エレベーターの速度制御機能を有し、抵抗・コンデンサー・トランジスター等の電子部品で構成されており、その故障に対応するにはプリント基板全部を取り替える以外にないが、GU―一七Yプリント基板そのものは、製造段階である範囲内の値に設定されており、取替えの際、あまり調整する必要がないこと、及び乙事件部品は、エレベーターの箱に与えられた制御信号と逆に動こうとする場合、この動きを検知して停止信号を出し、エレベーターを停止させる機能を有し、その構造は極めて簡単で、ベークライトの板片に二個のリードスイッチの入った不活性ガスの封入されたガラス管が取り付けられているもので、この取替えもリードスイッチのガラス管のみを取り替えるか、ベークライトごと取り替えるかの選択があるだけで、その作業は単純、簡単であることが認められ(る。)《証拠判断省略》

(三)  右認定の諸事実及び前記三2(三)認定の独立系保守業者の阪神輸送機が故障したGU―一七Yプリント基板の応急修理をできたことを考え合わせると、前記五2(一)の事実によっては、安全性確保の必要性によって、被告の甲・乙両事件の取引妨害行為を正当化(違法性を阻却)するものとは認められない。

また、被告の安全性確保の必要性の主張に沿う証人遠藤、同斎藤忠義、同進藤敏雄の各供述部分は、前掲各証拠及び事実に対比すると容易に採用し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

六  被告の責任

前記一から四認定の事実によれば、被告は、甲事件及び乙事件における注文に対する被告の対応が独占禁止法二条九項六号、昭和五七年公正取引委員会一般指定第一五項に該当し、同法一九条に違反する不当な取引妨害行為であることを認識していたか、少なくとも認識することが可能であったと認められる。

七  損害

1  甲事件

(一)  財産的損害

甲事件原告代表者尋問には、甲事件原告の主張に沿う趣旨の供述部分が存在する。しかし、《証拠省略》によれば、甲事件原告と愛媛メンテナンスとの保守契約は、フルメンテナンス契約であり、フルメンテナンス契約においては、本来保守業者が保守費用を負担することになっていること、甲事件原告と愛媛メンテナンスとの保守契約書に、応急修理と本修理を区別して、本修理がされる前の応急修理の費用を甲事件原告が負担する旨の条項が存しないことが認められ(る。)《証拠判断省略》

(二)  慰謝料について

《証拠省略》によれば、甲事件原告は、被告が注文に応じてくれなかったので、被告から甲事件部品を買うことができず、甲事件エレベーターを直ちに修理することができなくなり、危険な状態でエレベーターの利用を続木ビルの居住者や利用者に強いることになった上、大阪市内にある阪神輸送機で応急修理をしてもらうため、同年六月二九日から七月二日までエレベーターを停止したことにより、階段の利用を余儀なくさせることになり、名誉及び信用を害されたことが認められる。被告の不法行為によって甲事件原告が受けた名誉・信用毀損に対する慰謝料としては、一〇万円が相当である。

(三)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、甲事件原告は、甲事件原告訴訟代理人らに甲事件訴訟の提起及び追行を委任し、相当額の費用及び報酬を支払い、または支払いの約束をしているものと認められるところ、甲事件事案の内容、審理経過、結果等諸般の事情を総合して考えると、甲事件不法行為と相当因果関係にある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、一万円とするのが相当である。

2  乙事件について

(一)  得べかりし利益の喪失

弁論の全趣旨によれば、乙事件原告と藤との保守契約が被告の不法行為がなかった場合確実に継続したと相当因果関係が認められる期間は、一年とするのが相当である。右契約による一年間の純利益が乙事件原告の得べかりし利益となるところ、昭和六〇年度の総理府統計局編個人企業経済調査年報によれば、乙事件原告の営業利益は三三・三パーセントとみるのが相当である。乙事件原告と藤との保守契約の保守金額は月一万六〇〇〇円であるから、乙事件原告は、一年間に、藤との保守契約によって一九万二〇〇〇円得ることができ、その三三・三パーセントである六万三三六〇円が、乙事件原告の被った損害ということになる。

(二)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、乙事件原告は、乙事件原告訴訟代理人らに乙事件訴訟の提起及び追行を委任し、相当額の費用及び報酬を支払い、または支払いの約束をしているものと認められるところ、乙事件事案の内容、審理経過、結果等諸般の事情を総合して考えると、乙事件不法行為と相当因果関係にある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、一万円とするのが相当である。

八  結論

以上のとおり、甲事件原告の請求は、不法行為による損害賠償請求権に基づき一一万円及びこのうち一〇万円に対する不法行為の後の昭和六〇年四月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、乙事件原告の請求は、不法行為による損害賠償請求権に基づき七万三三六〇円及びこれに対する不法行為の後の昭和六〇年四月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、それぞれ理由があるから認容し、その余は理由がないから、それぞれ棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河田貢 裁判官 杉江佳治 濱谷由紀)

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